4.温度感知と記憶学習の分子メカニズム

 これまでに、温度走性や温度記憶に異常をもつ変異体を多数単離しました。それらの解析から、温度受容や記憶・学習に関わる分子が明らかになりました。興 味深いことに、これらの分子は線虫だけでなくヒトでも共通して存在しており、ヒトの温度受容や記憶学習の分子機構の研究にもつながっています。

温度感知の分子機構
 温度受容の分子機構は、1997年にTRP型の温度受容 体が単離されて以降、発見の主要過程は収束に向かうと考えられていました。ところが、近年、我々は、線虫の温度応答行動の変異体の解析から、温度情報がヒ トの視覚や嗅覚と同様に、3量体Gタンパク質を介して伝達されることを明らかにしました(Kuhara et al., Science, 2008)。また、温度情報の感度の調節に関わる分子として、カルシウム情報伝達分子を同定しました (Kuhara et al., Neuron, 2002)。

 しかし、まだまだ分からないことも多く、例えば、温度受容体がどのようなものか非常に興味があります。

記憶学習の分子と神経回路

 記憶学習の神経回路メカニズムを理解する目的で、従来の分子生物学と、最先端の光技術(Ca2+や膜電位のイメージング)を組み合わせた研究をおこないました。まず、温度学習が、わずか3対のニューロンからなる最小の神経回路で制御されていることを、光技術と分子生物学を駆使してあきらかにしました(Kuhara & Mori, J. Neurosci, 2006; Kodama et al., Gene Dev., 2006; Gomez et al., Neuron, 2001)。

 分子レベルでは、温度学習の変異体の解析から、分泌性タンパクであるインスリンやCa2+シグナル経路を同定しました(Kuhara & Mori, J. Neurosci, 2006; Kodama et al., Gene Dev., 2006; Gomez et al., Neuron, 2001)。

温度走性の神経ネットワークと遺伝子